10月22日のSunday Market CiBOには、6種の玄米おむすびをつくっていきました。自家製の梅しそ、おかか、ごま醤油、こんぶ、Good Life Farmの白蕪の浅漬、そしてタカキビ。蕪の浅漬はたくさんつくっていきましたし、人気でしたが、意外にとる人が多かったのが、タカキビ。珍しかったからでしょうか。買った方もそうでない方もおっしゃいました。
「タカキビってなんですか?」
どんなものかも知らない人が多いことに少し驚きました。
山(焼畑)で育てはじめて10年近くたち、毎年のように収穫し、種をつぎ、スリランカカリーにはターメリックライスにまぜて出したり、お正月前にはお餅について配ったりと、オリゼではいちばん身近な雑穀です。姿かたちはこれ(下の写真)。収穫直後ですが、天日で乾燥させたあと、つぶつぶの部分を脱穀調製して料理します。
■背の高い黍(きび)
その場で一言で説明するときには、背の高いキビですと言います。黍といえば、黍団子という名称からもおなじみですから、そうしたもの=雑穀の一種で、キビよりも背が高いものということになります。黍はものにもよりますが、1mから高くても1m70cmくらい。一方タカキビの高さは2m以上で3m近く育つ場合もあります。
ただ、タカキビは黍とは違うのです。たとえていうなら、蕎麦と麦くらいには別ものです。まず、黍よりも日本に渡ってきた時代は新しく、室町から戦国時代にかけて。十分古いじゃないかと思われるかしれませんが、稲の渡来がかれこれ2千年前、アワ、ヒエといった雑穀がそれより前です。黍の渡来は稲よりも後ではありますが、それでもタカキビより千年以上は前のことです。
タカキビ。モロコシとも呼ばれます。トウモロコシとは違います。大陸からやってきた(比較的)新しい穀物です。静岡の井川地方ではホウキモロコシと呼ばれています。江戸時代には全国各地、特に山間部にひろまってさまざまな名前で呼ばれていました。さらにめんどうなことには、タカキビのことをキビと呼び、黍のことはコキビ(またはイナキビ)と呼んで区別する地域もあります。
そんなに名称がバラバラだと大変! かといえばそうでもありません。栽培しているところは日本でごくわずかとなっていますから。一方で、飼料用としてソルゴーと呼ばれるものをよく見かけるようになりました。こちらは品種改良されて、古来のものより背が低く、1m以上2m未満といったものです。これらはれっきとしたタカキビです。
各地で伝統的なタカキビ栽培を復活させて特産にという動きがあります。しかし、数年たってなぜかうまく育たたくなったという話をちらほら聞きます。ひとつには、栽培方法や気候の問題。そして、考えられることとして交雑の問題が考えられます(市販されている種子のなかに、交雑したものが混じっています。それが他の要因ともからみ、世代交代とともに不稔性を生じるのかも)。
オリゼでお出ししているタカキビは、どこまで遡れるかは不明ですが、古いほうのタカキビです。出雲地方を流れる斐伊川の上流に尾原ダムがありますが、そのダム建設で移転された林原という地区の一農家の畑がふるさとです。山の畑で長く育てられていたタカキビの種子を継いでいるものなのです。わけていただいた方が、移転後も、小さく栽培されていたものを粉にして直売所で販売されていたのを見つけてお願いしたのが、かれこれ10年近く前のこと。その方も、いまは栽培されていません。
交雑を避けるために、ふつうの畑からは遠く離れた山の焼畑で栽培しつづけているのも、そのタカキビの形質を維持していくためでもあります。一度だけ、野菜をつくっている平地の畑で栽培したことがありますが、稈が腐りがちになり、うまく育ちませんでした。いま栽培を続けている場所は、奥出雲町の(旧)林原地区から2〜3kmほど離れた山の斜面です。
■奥出雲地方のタカキビ
雑穀の栽培が早くから消失していった出雲の山間部ですが、タカキビは比較的近年までつくっておられるところが多かったのかもしれません。アワやクマゴやキビは見たことも食べたことはなくても、タカキビは知っている人に出くわします。
「子どもの頃食べたタカキビ団子がなんとも美味しかった。いまでも忘れられない。もう一度食べてみたい」という声も聞きます。
奥出雲地方でなぜタカキビ栽培が雑穀の中で最後まで続いていたのか。「美味しかった」ということが理由のひとつだと考えます。その美味しさはモチモチ感と、少しばかりのタンニン質です。そしてもうひとつ。
山で栽培しても、(今のところ)鳥が食べないのです。熟すとともに表面に焦茶がつくタンニン質と比較的大粒であること。また、イノシシも(今のところ)数本ほど稈をかじり倒すことはあっても、トウモロコシのように、すべてなぎ倒すようなことはしません。なので、栽培を続けられています。
ここまでで、少し長くなってしまいましたので、つづきはまた改めて。